
メンタリストDaiGoさんが使用しているということで、一時話題となったスタンディングデスク(立ち机)ですが、日本では楽天などの大手企業中心に活用されています。
また、最近のテレワークの普及で自宅にスタンディングデスクを導入する人も増えているようです。
スタンディングデスクを仕事に使うと健康に良い悪いの議論はよく行われていますが、この記事では「勉強の効率化に効果があるか」について考えてみたいと思います。
結論から言うと、スタンディングデスクは受験勉強や資格試験の勉強に効果があると考えられます。
ただし、ずっと立ちっぱなしではなく、イスに座るのと併用するのが効果的なようです。
本記事では国内外の学術論文、学会発表などの資料からスタンディングデスクの効果を調べてみました。

スタンディングデスクは眠くならないのか?
スタンディングデスクの使用は眠気防止効果あり
国内で行われた研究事例を2例ご紹介します。
なお、これらの研究では実験での立位姿勢時はスタンディングデスク(昇降式)を使用しています。
1つめの研究事例は大学生を対象に行われた実験で、座位(イスに座ったまま)・立位(たったまま)・転位(座位と立位を交互)の状態で、ワープロ作業を行った時の眠気についてのデータです。
この研究によれば、座位と立位では立位の方が統計学的に有意に眠くなりにくい(鈴木ら,2014)ことが分かりました(図1、図2)。

実験開始後、全ての時間帯で座位よりも立位・転位が眠くない状態が続く事がわかる。

座位と立位では立位が眠くなりにくい(統計学的有意差あり)。座位と転位では転位が眠くなりにくいという傾向はみられた(有意差なし)。
ポイント
要するに、立ったままだと眠くなりにくいと科学的に断言できますが、「座る」と「立つ」を繰り返すのは眠くなりにくい傾向は見られたものの、断言するには至らなかったということです。
2つめの研究事例は中学生を対象とした研究です。
立位と座位を自由に変え勉強する「可変姿勢」のグループと座位のみで勉強するグループに分け、それぞれの眠気感を調査しました。
実験は80分を1コマとして2回行われました。
注目すべきは実験を行った時間帯で、1コマ目開始が17:00で、2コマ目終了が22:00という学校から帰ってきた後に勉強をする時間帯だと言うことです(疲れてる時間帯)。
その研究によれば、座位姿勢のみのグループより可変姿勢のグループが眠くなりにくい(阿久津ら,2018)ことが分かりました。

学習中のほとんどで、可変姿勢の方が座位姿勢よりも有意に眠くなりにくいのが分かった。なお、図中の*(アスタリスク)は統計学的有意差があることを示し、その数が多いほど信憑性があることを示す。
ポイント
こちらの研究では、「立つ」「座る」を交互にする方が座ったままより眠気を防止できると科学的に断言できるという結果でした。



立って勉強すると勉強効率が良くなるのか?
「座ったまま」よりも、「立つと座るを交互」にした場合、学習効果が高くなる。

阿久津ら(2018)では先ほどの眠気以外にも「学習成果」についても調査しています。
この研究では「座ったまま(座位姿勢)」と「立つ・座るの交互(可変姿勢)」でどちらが多く漢字を覚えられるかという実験をしました。
その結果、「立つと座るを交互」での学習効果が有意に高いということが分かりました(図4)。

学習コマ1と合計で可変姿勢が有意に学習効果がある(漢字を覚えられる)という結果になった。図中のプラス記号は統計的有意差があることを示す。
また、阿久津(2012)では、テンキーとエクセルを用いた一桁の計算を可変姿勢と座位で正答数を比較したところ、可変姿勢の正答数が有意に高くなることも見出しています(図5)。

さらに、Mehta et al.(2014)の研究では前頭葉機能検査法である「ウィスコンシンカード分類課題」において、スタンディングデスクを使用することにより有意なスコアの向上が認められたことを報告しています。

スタンディングデスクの使用は疲れないか?
立ったままだと疲れるし、むくみも発生する。ただし、立つと座るを交互にすると疲れもむくみも緩和する。
鈴木ら(2014)の研究では身体の疲労に関するデータも検証をしています。
その結果によれば立位のまま作業をすると「足のだるさ」が顕著になりますが、座位と立位の姿勢転換することで緩和されることが分かりました(図6)。

立位では足のだるさが高いが、姿勢転換では座位程度に緩和されています。立ったままでは疲れるということです。
なお、この実験での姿勢転換は立つ(20分間)座る(40分間)の交互です。
また、座り続けることによる臀部(おしり)の違和感(痛さ)は、座位と立位の姿勢転換することで緩和されることが分かりました(図7)。

後半の時間になると座位では臀部(おしり)の違和感が上昇するが、姿勢転換では座位レベルにとどまる。
足の「むくみ」については座位・立位ともに同じくらいむくみが発生しましたが、座位と立位の姿勢転換により緩和されることが分かりました(図8)。

座ったままよりも「立つ・座るの交互」が足のむくみを軽減する。

スタンディングデスクでダイエット?
Saeidifard et al.(2018)の研究では、立位・座位におけるカロリー消費について、過去に発表された論文46例を文献調査しました。
座るよりも立って作業する方が1分間あたり、0.15kcalだけ消費カロリーが多いということが分かりました。
本当に小さな効果ですが、多少のダイエット効果を期待しても良いのかもしれませんね。
勉強でのスタンディングデスクの効果的な使用法は?
上記までの研究結果から、スタンディングデスクを使用した勉強は効果があることが分かります。
身体の疲労などを考えると「立つ」と「座る」を交互に行った方が良さそうです。
では、「立つ」と「座る」の時間的な配分はどの程度が効果的なのか調べて見ました。
茂木ら(2016)の研究では「立位のみ」「立位10分・座位50分」「立位40分・立位20分」の組み合わせで疲労感を調査しました。
その結果、60分のうち10分立位姿勢で作業するだけでも負担軽減効果がある
ことが示唆されました。

前述した「足がだるさ」(図6)では、20分間立位、40分間座位において「足のだるさ」を軽減できました。
ポイント
以上のことから、60分間のうち10〜20分程度は立ったまま勉強をすれば疲労感は緩和されると考えられます。
スタンディングデスクの勉強への効果 まとめ

受験勉強や資格試験の勉強においては、スタンディングデスクは勉強効率向上の効果が期待できます。
ただし、ずっと立ち続けると疲労や「足のむくみ」「疲労」が発生するので適度にイスに座って勉強をする事が大切です。
立ったり座ったりを行うには、高さが固定されているスタンディングデスクよりも、高さを変えられる昇降式のスタンディングデスクが最適かと思います。
スタンディングデスクの選び方や具体的な商品については「【2021年版】受験勉強用スタンディングデスク(立ち机)の選び方」でご紹介しています。
スタンディングデスクの導入をお考えの方はぜひ参考にしてください。
また、座っている時は適切なイスに座って勉強することも重要な要素になります。
勉強に最適なイスの選び方については下記の記事でご紹介していますので合わせてお読みください。
学習イスに関する記事一覧
引用文献
それぞれの論文の一部のみ紹介しましたが、詳しく理解したい方は論文へのリンクをご参照ください。全て別ウィンドウで開きます。
- 鈴木一弥 落合信寿 茂木伸之 山本崇之 岸一晃 浅田晴之,
高さ可変デスクを使用したデスクワークへの立位姿勢の導入が身体違和感,疲労,下腿周径に及ぼす影響
,労働科学 90巻4号pp.117~129,2014 - 阿久津正大 石毛航 高杉健一 大深浩史,
教育の場における座位と立位を変えられる姿勢の有効性の検討(2)
,人間工学 54巻Supplement号 p.2H3-6,2018 - 阿久津正大 外岡雅人 浅沼悠未 榎原 毅,
座位・立位可変型作業の作業特性と有効性に関する研究(1)
,第53回日本人間工学会大会講演集,2012 - Ranjana K. Mehta, Ashley E. Shortz, Mark E. Benden;Standing Up for Learning:
A Pilot Investigation on the Neurocognitive Benefits of Stand-Biased School Desks
;Int. J. Environ. Res. Public Health, 13(1), 59,2016 - Farzane Saeidifard, Jose R Medina-Inojosa, Marta SuperviaThomas P Olson, Virend K Somers, Patricia J Erwin,Francisco Lopez-Jimenez;
Differences of energy expenditure while sitting versus standing: A systematic review and meta-analysis;European Journal of Preventive Cardiology;2018 Mar,25(5),pp.522-538
- 茂木伸之 鈴木一弥 山本崇之 岸一晃 浅田晴之,
上下昇降デスクを使用した立位作業の適切な挿入時間の検討
,人間工学 52巻 Supplement号,2016